もどる

1 好敵手たち──水野エリカ──

 私は肩をかろうじて上げはしたものの、一人では起き上がれない中谷を、無理矢理立たせると再度キックを放った。しかし、今度はスリーカウントギリギリという微妙なものではなく、確実にツーカウントで肩を上げる中谷。
 さらに立たせてキック。
 今度はカウントワンだ。
 キック。
 レフェリーがカウントを取る前に肩を上げる。
 キック。
 とうとう私がフォールしようと覆い被さる前に中谷は上体を起こした。
 間違いない。ガードするのが間に合わないまでも動物的な勘で当たるポイントを僅かではあるが外している。これでは打撃でも中谷からピンフォールを奪うことは出来ないのか。
 私は攻め手を失って呆然と立ち尽くした。
「水野ー、何やってんだー! もう一度蹴れば勝てるぞー!」
「中谷はやせ我慢してるだけだぞー! 早く楽にしてやれー!」
 客席からの野次が聞こえた。
 違う。中谷はやせ我慢してるのではない。効いてないんだ。確かに蹴りを受けるのは痛いだろう。でも、“痛いだけ”なんだ。渾身の力で頭を蹴っているというのに、脳震盪さえも起こしていない。蹴られた部分の表面だけの痛み、内部(脳)へのダメージは最小限に押さえている。
「無理だ……。こいつには何発蹴りを喰らわせても何度でも起きてくる……」
 そうしているうちにダメージから回復した中谷がゆっくりと立ち上がってきた。
前ページ
次ページ