もどる

1 好敵手たち──水野エリカ──

でも……。
「紺野の優勝を阻むのは中谷じゃない、私だ……」
 そう、私はいくら腕のダメージが深刻でも、それを理由に中谷との再戦を棄権する訳にはいかない。私はセコンドに
「すぐ再戦?」
 と聞いた。
「水野さん、もう無理ですよ! 棄権しましょう!」
 セコンドの田中が私の腕を見ながら叫ぶ。でも、だからと言って「はい、そうですか」なんて口が裂けても言えない。
「やるといったらやるんだよ! もし次の試合でタオルでも投げたら許さないからね!」
 私は思わず大きな声を上げていた。
 沙希さんがこちらに近づいてくる。
「水野ちゃん、いいのね?」
 という沙希さんの言葉に
「やりますよッ!」
 私は即答した。
「腕がどうかなってしまって、選手生命が断たれることになっても後悔しない? 中谷ちゃんの関節技の威力から、この言葉が大げさでない事はわかるでしょ」
 私の目を覗き込むように沙希さんが言う。私も沙希さんの目を見た。
「……後悔……しません……!」
前ページ
次ページ