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1 好敵手たち──水野エリカ──しかし、今の私は一介の前座若手レスラー。今の私がマイクでなにやら叫んだところで、出すぎた真似をするなと先輩達に怒られるのは明らかだ。前座はあくまで後半戦を盛り上げるための前菜に過ぎないのだから。マイクなんて使ったら、そのインパクトがメインをかすませてしまう。試合でメインを食うのならともかく、試合とは関係無い勝手な自己主張でメインを食うなんて許されるはずが無い。デビュー以来、常に紺野の背中を見てきた私だが、今の私なら紺野のアマレススタイルにも充分すぎるほど対応できている自信はある。今年は絶対紺野より一点でも上を行く。優勝できなくてもいい。紺野より成績が上であれば。 と、今年のニューホープについて私は決心を固めてはいたが、紺野自身に対しては別に含むものなど無い。道場では良きライバルであり、一番話せる親友みたいなものだ。紺野明日香個人は嫌いではないし、むしろ好きだ。現場のことを知らずに勝手に格付けする体制に許せない部分があるだけだ。 道場でニューホープの日程が発表された。プリントが配られ、簡単に沙希さんが説明をした。 沙希さんの話が終わった所で、みんなは日程表のプリントを見ながら雑談を始める。 「げ〜、私、最終日にも試合ある〜。それじゃあ一日二試合じゃないの」 日程を確認して思わず口から出た言葉だ。この時は単に自分の日程に対しての感想であって、特に何かあるというわけではなかった。しかし、その横で紺野が 「らっきぃ! 私は試合無いから、決勝だけに集中できる」 と言っていたのが聞こえた瞬間、会社に対しての怒りが起こった。 |
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