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1 好敵手たち──水野エリカ──

 今年もニューホープカップの季節がやってきた。
 去年はデビューしたばかりのときに開催されたので、思うように試合が出来ないで不本意な結果に終った。でも、私にとってもっと屈辱的だったのは、去年の成績で、得点数で紺野明日香に負けていたという事だ。
 私、水野エリカは、紺野と同期で、空手出身とアマレス出身という事で『打撃の水野、組み技の紺野』という風に常に比較されていた。でも私は打撃だけではない自信がある。私のやっていた流派は、関節技のような組み技もある流派だったから、関節技が禁止されているアマレスに比べたら、総合力という点では紺野より上だという自負があった。しかし、有利なポジションをキープするという部分ではアマレスに一日の長があった。いくらこちらが関節技が得意でも、関節を取るための体勢を取る事を紺野はなかなか許してくれなかったのだ。
 普通、新人のデビュー戦は、先輩レスラーが相手をする事になっているが、私と紺野は、NJWPとしては異例の、デビュー同士の試合となった。私と紺野はデビュー戦同士で戦ったのだ。雑誌によると、将来有望な新人同士をあえて戦わせる事でなんとかかんとかと書かれてはいたが、私はその頃から紺野が主役で自分が脇役という風に会社が扱っていたのを感じていた。確かに私も将来トップの一角を担う選手になるかもしれない。しかし、あくまで一角であって、その頂点には紺野が立っている、という図式を会社は描いていたのではないだろうか。
 私は長州力さんの気持ちがわかったような気がした。いつまでも藤波さんの下という風に会社に扱われていて、ついにその体制に牙を向いたのだから。
「藤波! 俺はお前のかませ犬じゃないぞ!」
 こうマイクアピールしたときの長州さんが今の私に重なっている。
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