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20R ニューホープ後編口ではそういうものの、中谷さんも満更では無さそうだった。勝者である中谷さんの顔にも私の顔にも涙は一粒も無い。ただただ笑顔。それだけだった。私と中谷さんの姿に、客席からはリングを飲み込むほどの大歓声が起こった。まるでこの会場全体が揺れているかのようだ。もう私も中谷さんもお互いの声が聞き取れない。これほどの大歓声に包まれるのは初めてだった。 お客さんも私の精一杯のプロレスを解ってくれた。 「やった──!!」 私は、歓声にかき消されながらも、お腹の底から声を振り絞って力いっぱい叫んだ。 今、リングの上では、中谷さんの表彰式が行われている。それを見ながら、私は今日の試合を振り返っていた。 試合が終わるまではアカの他人だと言った中谷さん。いや、敵だ、と答えた私。 お互い、この相手にだけは負けたくないと本気で思える、そういう相手。それが私にとっての中谷さんであり、中谷さんにとっての私。先輩である中谷さん、後輩である私、この二人はこの試合で好敵手という名前で結ばれた。男女の仲で言うなら相思相愛のカップルみたいなものだ。 賞状を受け取っている中谷さんの姿を見ながら、私は自分の目から涙が流れているのに気付いた。さっきまで笑ってたのに、なんでいまさら涙が流れるんだろう。それがまた滑稽に思えた私は、涙を流し |
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