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20R ニューホープ後編「……そうですか、指、ですか……」私はそう答えると、急に笑いがこみ上げてきた。九割九分九厘勝っていたはずの試合、それが指一本に負けてしまうなんて。 「そうですか、指、ですか!」 同じ言葉を繰り返すと、私は握手している手を手繰り寄せ、勝者を力強く抱きしめた。ファンはこの試合に遺恨を後々まで引きずる事は期待していない、終わってみればノーサイド、大団円のエンディングを望んでいると直感的に閃いたからだ。中谷さんも私の抱擁に応える。 「中谷さん、私に試合をリードさせているように思わせて、実はそう仕向けていただけだ、なんてことは無いでしょうね」 抱き合ったまま聞く私。 「違うよ。このままズルズル行くと負けてしまうと解っていても愛ちゃんの流れに乗ることしか出来なかった。今日の試合は本当に指一本、これだけ」 答えを聞きながら、私はさらに力強く中谷さんを抱きしめる。 負けたんだから悔しくないといえば嘘になる。だけど、それ以上に私の体には充実感が満ち溢れていた。この試合がお客さんの目から見て凡戦だったか名勝負だったかは解らない。だけど、間違い無く私は、いま自分が出来る精一杯のプロレスを見せ付ける事が出来たのだ。 私は中谷さんに後を向かせた。 「え? な・何するの?」 と言う言葉を無視して、私は戸惑う中谷さんの体を肩車で持ち上げた。 「ちょっと、愛ちゃん、やめて、恥ずかしいよ!」 |
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