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20R ニューホープ後編

 そのまま、中谷さんは私の体に覆い被さり、レフェリーに「フォール!」と叫んだ。慌てて向き直りカウントを取るレフェリー。
 顎へのパンチをまともに食らって一時的な脳震盪に陥った私は、身動きできない体でレフェリーがマットを三回叩く音を聞くしかなかった。


 中谷さんが勝ち名乗りを受ける頃には、私は脳震盪のダメージも回復して自力で起き上がる事が出来ていた。
 どうやら、今回も、最後の最後、その詰めを誤ったらしい。だけど、レフェリーも一度は失神したと確信した私のスリーパーホールド、それをどうやって中谷さんは耐え切ったのだろう。
 私は呆然としたまま、中谷さんに歩み寄って、手を差し出した。小さく微笑んで握手に応じる中谷さん。
「中谷さん……。落ちグセ、直ったんですか……?」
「まさか。体に染み付いてしまったクセはそう簡単には無くならないよ」
「じゃあどうして……?」
 中谷さんは悪戯っぽく笑うと、握手してない方の手の指を自分の首の頚動脈のそばに当てた。
「今日の試合は、指、たった一本の差だったね。それが無ければ私は間違い無く負けていたよ」
「指……?」
 つまり、中谷さんは私の腕と首の間に指を一本挟む事で空間を作り、頚動脈が完全に締められるのを防いでいた、訳だ。
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