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20R ニューホープ後編

 今だ!!

 私は中谷さんの背後を取ると、首に腕をからませ、力の限り締め上げた。柔道で言う裸締め、スリーパーホールドだ。中谷さんには落ちグセがある。柔道選手時代、締め技の練習のし過ぎの後遺症が未だに残っているのだ。中谷さんの膝が崩れる。私も体を低くし、中谷さんの胴に足を回して胴締めスリーパーの体勢に移行する。これでもう逃げる事は出来ない。
 もがく様に宙を泳いでいた中谷さんの腕がダラリと力無く落ちた。レフェリーが中谷さんが失神したかどうかを確認する為、中谷さんの手を持ち上げて放す。やはりダラリと重力に従って落ちる中谷さんの腕。
 レフェリーがゴングを要請しようと本部席側に向き直った。

 勝った! ついに中谷さんに勝つ事が出来た!

 ところが、レフェリーが本部席に合図をしようかというその間際、中谷さんの両の目がカッと見開く。そして、さっきまで力無く垂れ下がっていた腕が、力強く動いた。

 え!? ま・まさか……。

 次の瞬間、中谷さんの拳が寸分たがわず私の顎に炸裂した。がっちりと中谷さんの体を捕獲していた私の両腕と両足の力が抜ける。
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