もどる

18R ニューホープ前編

 中谷さんは、私に叩かれたのにやり返す事も無く黙って退場する。

 無意識とはいえ、私は間違い無くギヴアップしていた。ギヴアップ、つまり、自ら負けを認めたという事だ。にも関わらずレフェリーに抗議するわ、中谷さんを引っ叩いてしまうわと、スポーツマンらしからぬ行為をしてしまった事に、私は控室に戻ってから後悔してしまう。が、中谷さんは笑顔で
「愛ちゃんやってくれるね〜。マジで痛かったよ」
 と話し掛けてくる。
「あ、中谷さん……。済みません……」
「なに言ってんのよ〜。あれは良かったよ。私が腹固め出したところで会場の空気が変わったでしょ。でも、最後の最後に愛ちゃんが自分をアピールして退場したんだから。試合には勝ったけど、会場の空気を取り戻されたという点では完敗だな、と思ってるくらいだから」
「だったら、やり返してきても良かったのに……」
 私の言葉に、中谷さんは笑みを浮かべながら
「ゴメンね。愛ちゃんは試合前に自分に花を持たせるようなことはするなと言ってたけど、その約束破っちゃった。どうせ試合は済んでるんだから、愛ちゃんの張り手に反撃しないという事で花を持たせてあげちゃったのよ」
 と答える。
「なんたって、愛ちゃんの地元だからね。でも、これで私と愛ちゃんの因縁という図式がファンに植え付けられちゃったわけだから、優勝決定戦で決着つけなくちゃ、だね。頑張って優勝決定戦まで駒を進めてね。私も頑張るから」
前ページ
次ページ