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18R ニューホープ前編

込むしかない。
 その時、私の耳元で中谷さんが
「愛ちゃん、これで耐え切ったら誉めてあげる」
 と言い、さらに強烈に締め上げてきた。
 私は声にならない悲鳴を上げた。
 このまま時間切れまで耐え切ったとしても、下手したら残りの日程負傷欠場、不戦敗。今日負けても残りの日程で挽回したら優勝戦線に残れるかも知れない。我慢するか参ったするか──。

 試合終了のゴングが鳴った。

 時間切れ引き分け?

 しかし、レフェリーは中谷さんの手だけを上げていた。

『29分59秒、腹固め。中谷園子選手の勝ちです』
 場内アナウンスが聞こえた。残り時間僅か一秒。

「そ・そんな! 私はギヴアップなんてしてない!」
 思わず抗議する私だが、レフェリーは詰め寄る私を制しつつ、首を横に振った。抗議は全く受け入れない姿勢だ。
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