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18R ニューホープ前編

受け切れないほど強烈に攻めていこう、中谷さんが攻めに転じる前に試合を終わらせてしまおう、という作戦だ。
 その作戦通り、地元のファンには、私の攻めの姿勢が強烈に印象に残ったと自負している。だけど、この作戦を完遂する事は出来なかった。私のミスは、中谷さんの受けの強さを過小評価していた、の一言に尽きた。私がいくら中谷さんが反撃しようとするのを力で強引にねじ伏せてまで攻め続けても、中谷さんはギヴアップする気配を露ほどにも見せずに、フォールも余裕で返していくのだ。
 とうとう、中谷さんが負けるより先に、私のスタミナの方が切れてしまった。残り時間は既に一分を切っている。一瞬「時間切れ引き分け?」と思った私の心のスキを中谷さんは一気に突いてきた。
 中谷さんが十八番、一本背負いからの腕ひしぎ逆十字固めを繰り出してきた。現在NJWPの若手でこの必勝パターンを確実に防いだのは、水野さんと私の二人だけと言われている。水野さんは投げられる前に逆に丸め込んでフォールしたし、私は投げられはしたけどとどめの逆十字は腕をロックする事で防いだのだ。今回も腕を伸ばされないようにディフェンスしようと思ったけど、中谷さんはさらにその上を行っていた。投げた後で素早く私の体を裏返してうつ伏せにし、私の背中にお腹を押し付けるようにしたまま、私の両腕を足と腕でロックしたのだ。実際に極めているのは足と腕、極められているのは両腕なんだけど、身動きできないようにお腹でプレッシャーを与えるので、この技は「腹固め」と言うらしい。
 プロレス技の中でも秘技中の秘技と言われているこの技一つで、中谷さんは私の押せ押せムードの会場の空気を一瞬にして消し去ってしまった。
 リング中央、しかもスタミナを激しく消耗している上に両腕を塞がれている。ロープに張って逃げるのは不可能。
 残り時間30秒のアナウンスが聞こえた。もはやこれまで。あとは時間いっぱい耐えて引き分けに持ち
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