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17R ベルト流出

しれない。過ぎてしまった事に対して「if(もし)」は厳禁だという事は百も承知だけど、それでもやっぱり 悔やまれる。
 フィニッシュとなったのは、バックドロップ。私と石破選手の試合が凄惨なものになった原因でもある、 私にとっては因縁の技だ。もっとも、長谷川さんのバックドロップは、力まかせに強引にやるようなもの ではなく、腰のバネを最大限に生かしたものだというのは、見た目にも解った。でも、やっぱり何かが違 う。
「バックドロップの体勢に入った時点で、既に長谷川さんのスタミナも限界だったみたいだよ。途中で体 勢が崩れたもん。それが逆に、ルー・テーズが力道山に対して仕掛けたバックドロップのようになったん だろうね」
 私と同じく、フェンスの外に残った中谷さんがため息交じりに言った。
 そうだ。腰のバネを利かせてヘソで投げるバックドロップは、今は投げ切る最後まで綺麗なブリッジを 描くものがほとんどだ。そのバックドロップに改良を加えて、投げ切った後もブリッジの体勢のまま固め るジャーマンスープレックスが生まれたのだ。しかし、今日長谷川さんが見せたバックドロップは、相手 をヘソに乗せる所までは同じだけど、そのあと、沙希さんの体の重心が後方に傾いたところで、腰砕け のように膝から崩れていったのだ。本来ならそのままブリッジを描くように投げていたところが、膝からし ゃがむように崩れたため、かえって急角度に沙希さんの脳天がマットに突き刺さったのだ。それも超高 速で。
「バックドロップの元祖であるルー・テーズは、今の長谷川さんのような“しゃがみ落とし”方式と、今も使 われている“ブリッジ”方式を相手に応じて使い分けてたの。それでギネスブックにも載っている936連勝 というとてつもない不滅の記録を打ち立てたんだよね。ちなみに引き分けも含めると、1000試合以上負
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