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17R ベルト流出

 以前沙希さんは私のことを化け物並の体力があると言ってたけど、それは沙希さんでしょ、と思わず 言いたくなった瞬間だった。

 30分経過のアナウンスが流れた頃から、大技も交えた“いつものプロレス”になった。
「こっからが本当の勝負だね」
 と中谷さん。
「どういう事ですか?」
「スパーリングっぽい展開にしろ、前座っぽい展開にしろ、沙希さんも長谷川さんも共に経験している、 でしょ。でも、前座を卒業して大技も使うようになった頃には二人は別の道を歩いてた、でしょ。つまり、 さっきまでの展開は二人ともお互いの手の内を知っている状態だった訳だけど、こっからはお互い知ら ないもの同士なんだよ」
 
“いつものプロレス”になってからは、試合は荒れに荒れた。戦場はリングの上だけでない。場外でも乱 闘を繰り広げる二人。見る見るうちに、沙希さんの顔は額から流れる鮮血で真っ赤に染め上げられて いく。
 私がオロオロしている横で、中谷さんは冷静に
「忘れかけていたけど、沙希さんのニックネームはブラディークイーンなんだよね。流血戦でこそその真 価を発揮するんだ。沙希さんの真の力を引き出す為にわざと長谷川さんは流血させたんだよ。山吹沙 希をブラディークイーンに変身させた上で勝とうとしてる、すごいプロ意識だね」
 戦いの場がリングに戻ってからも、長谷川さんは沙希さんの傷口に向かって、拳を何度も打ち付け
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