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17R ベルト流出フリーの、本当の本当に禁じ手無しのスパーリングだったらしい。そう、スパーリングは総合格闘技とは 畑は違うが、紛れも無いセメントだ。普段、客の反応をよく見て試合しろと言っている沙希さんが、自ら その言葉を破ってセメントをしている。「中谷さん、これは一体……」 私の言葉に 「いや、これはセメントであると同時にやっぱりプロレスだよ。ファンも沙希さんと長谷川さんが元々同期 という事は知ってるでしょ。その二人がかつて道場でどんな練習をしてきたかをファンに見せるためにセ メントしてるんだよ」 と中谷さんは言いつつもリングから目を離さない。 客席は静まり返っているが、退屈しているのではなく、固唾を飲んで見守っているという雰囲気を全身 に感じる。 改めて沙希さんと長谷川さんの顔を見ると、鬼気迫るものがあった。 沙希さんは『プロ』とか『プロフェッショナル』という言葉を好んで使う事が多い。一般的にレスリングと いうと、オリンピックなどのアマチュアスポーツ、つまりアマレスの方を普通は連想する。そして、そのア マレスに対してプロレスがある。だけど、悲しいかな、そのプロレスという言葉にはインチキとか八百長 というイメージが付きまとう。しかし、沙希さんはあくまでアマに対してのプロのレスリングという意味でプ ロレスと言っているのだ。そして、そのプロという言葉を、単にそれで食べているとか職業とかいう意味 だけではなく、一般人(アマチュア)には無い技術を持った玄人という意味で沙希さんは使っている。 そう、目の前で繰り広げられているのは紛れも無い“プロフェッショナル・レスリング”だ。 |
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