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17R ベルト流出

「なに深刻な顔してるの、大丈夫。ちょっと脅かしただけ。あの娘は、自分は今は総合の選手ではなくプ ロレスラーだから、プロレスルール以外では闘うつもりはないって言ってるから」
 沙希さんは笑いながらそう言ったけど、私の体はまだ震えたままだった。

 ようやく体の震えも落ち着いてきた頃
『飛龍原爆固め!』
 という実況アナウンサーの絶叫がモニターから聞こえた。森山さんが必殺ドラゴンスープレックスで相 手を下したのだ。私と同じく、試合終了ギリギリまで引っ張っていたけど、私のような一方的な展開では なく、森山さん自身、あわや負けか、というシーンも多々あり、白熱した試合だった、らしい。もちろん、 沙希さんの要望に合わせて時間配分した結果で、森山さんとしては筋書き通りの試合だ。
「42分13秒、か。調度いい時間ね」
 沙希さんはそう言うと、水着の上に入場コスチュームを羽織った。
「ここまで時間を引っ張ったから、最後の必殺技がすごい説得力を持ってるんだね。やっぱり森山さん はすごいな」
 私に肩を貸した以外は、ずっと一人でモニターにかじりついて観戦していた中谷さんが、満足げに言 った。
「NJWPの六勝三敗、勝ち越し決定、か。これで安心して試合できるな」
 と言う沙希さんに
「何言ってるんですか、ベルト多団体流出なんて絶対ダメですよ!」
 と中谷さんが突っ込みを入れる。普段とはボケと突っ込みが逆だけど、それほど重要な一戦である事
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