もどる |
17R ベルト流出私は思わず足腰の力がスッと抜けて、その場にヘナヘナと崩れるようにしゃがみこんだ。体が震えて いるのが自分でも解る。額には粘りのある脂汗が滲み出ていた。強い、強すぎる。ここまで強い信念を持ってプロレスに殉じている選手が同世代にいたなんて。 「あ、愛ちゃん、大丈夫?」 「だ・大丈夫です……」 私は立ち上がろうとするが、下半身に全く力が入らない。恥ずかしい事に、完全に腰が抜けていた。 まるで顔面にカウンターのパンチを受けたかのような衝撃を感じていた。 中谷さんが私に肩を貸して、椅子に座らせてくれた。 「私はレスラー同士の試合はあくまでプロレスでやるべきだっていう考えなんだけど、最近はレスラー同 士でも総合ルールで試合する事が結構あるんだよね。今日はNJWPの主催興行だから、全試合プロレ スルールなんだけど、ジャパンレディースの興行で、愛ちゃんと石破って娘の再戦が組まれて、それが 総合ルールだったら、どうする?」 プロレスと総合格闘技、似て全く異なる二つの競技。例えるならプロレスは必殺技に持っていくために 痛め技・繋ぎ技を多用してスタミナを削りあう競技。一方総合は削りあうのではなく一刀両断に切り捨て るのを狙う競技。長距離走のプロレス、短距離走の総合、こう例える人もいる。また、総合は勝ち負け を競うからといって、このくらいの打撃でノックアウトするだろう、このくらい締め上げれば参ったするだ ろうと加減してしまったら、それで相手が耐え切った場合、一転して自分が危ない状況にもなりうる。だ からセメントはセメントでも、かなりシュート寄りだ。男子の世界ではそのものズバリ「修斗(シュート)」と いう名の総合格闘技の大会があるほどだ。そうなったら、プロレスの常識内でのセメントの練習程度で は、アメリカ三位の猛者には絶対に勝てない。 |
前ページ 次ページ |