もどる

17R ベルト流出

だったらとんでもない実力の持ち主らしいよ」
「え?」
「あの美幸がスパーリングでは絶対勝てないって漏らしてたから。実を言うとね、アメリカでやってる総合 の大会、UFQC(アルティメット・ファイト・クイーンズ・カップ)で三位になった事があるんだって」
「UFQCで三位!?」
 UFQCと言えば、ガチガチの総合格闘技だ。殴ろうが蹴ろうが投げようが締めようが極めようが構わ ない、まさに何でもありだ。確かにプロレスも何でもありではある。ファイブカウント以内なら反則だって フリーパスだ。それでもやっぱりプロレスと総合とは違う。客の目を意識して戦うプロレスに対して、総合 はただ勝つか負けるかのセメントの戦いだ。それでアメリカで三位だなんて……。
「じゃあ、どうして今日は“懐の刀”を抜かなかったんでしょうか」
「愛ちゃんは今日の試合の出来についてあまり自信なさそうだったけど、あの娘にとってはやっぱりプロ レスだったんだろうね。もし愛ちゃんにセメントを仕掛ける気配があったとしたら、どうなってたかは解ら ないけどね」
 私は完全に言葉を失った。私に充分勝てるものを持っていながら、負けを覚悟であえてプロレスにこ だわった石破選手。逆の立場だったら、あそこまで攻められたら、私ならセメントで対抗していたかも知 れない。
「あの娘は、小さい頃からプロレスに憧れてて、アマレスをはじめいろんなスポーツやってたらしいの ね。なのに気付いたら周りに言われるままに、プロレスとは対極ともいえる総合をやっていた。それで周 りの反対を押し切ってプロレスに転向したらしいの。小さい頃からレスラーに勇気を貰ってた、今度は自 分がファンに勇気を与える立場になった、ってすごい嬉しそうな顔をしていたって美幸が言ってたよ」
前ページ
次ページ