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17R ベルト流出

「なんで謝るのさ?」
「プロレスの試合って、お互いの信頼関係の上で成り立つものでしょ。でも私……」
「私は信頼してたよ。今でも今日の試合はやってよかったと思ってる」
 ……え……?
「長谷川さんは私ら若手にいつもこう言ってるんだ。一%でも勝機があるのなら向かっていくのは当たり 前なんだって。それよりも、大事なのはその先。たとえその一%の勝機さえも無い、百%負けが確実だ としても絶対に敵に背中を見せるな。どうせ勝てないのならセコイ負け方ではなく思い切り玉砕しろ、っ てね」
 石破選手はそう言った後で「ホントに玉砕しちゃったけどね」と言って笑った。
「だから、確かに結果としては私は負けたけど、試合そのものには自信があるんだ。最後までジャパン レディース魂を見せ付けたんだから。負けたのは悔しいけど満足もしてるんだよね」
 確かに、途中私のキックに腰が引けてたシーンもあったけど、それでも私に向かってきていた。逆の 立場だったら……。中山先輩にシュートを仕掛けられたとき、私はリングアウト負けを狙って場外に逃 げたり、反則負けを狙ってレフェリーに暴行しようとしていた。石破選手の言う“セコイ負け方”を選んで いたのだ。私は急に凄く恥ずかしくなって、石破選手の顔がまともに見れなくなってしまった。
「でも、やっぱり負けたのは滅茶苦茶悔しいな。だから私の『いつかぶっ倒してやる』リストに山神愛の 名前を入れたからね」
 石破選手のこの言葉に、私は彼女の強さを初めて知った。技よりも力よりも、心が凄く強い。もし、ま た戦う機会があったとしたら、今度こそ正々堂々とお互いの技術を競い合いたいと改めて思った。
「……そう簡単には倒されない……よ」
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