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16R 不慮の勝利

「もう一人、石破ってのは、相手が全く受けてくれなかったから、技が上手いかどうかは残念ながら解らなかったけど」
 うっ……。
「でも、最初のバックドロップはヘタでしたよ……」
「たった一つの技じゃ判断材料には少なすぎるよ。この石浦ってのも、ヘタな技もいくつかあるし」
 …………。
「やっぱり私の試合、最悪だったですね……」
「あ〜、蒸し返してゴメン」

 結局中谷さんの試合は、大技の部類になるパワースラム(向かってくる相手をカウンターで横抱えにして身体をひねりながらマットに叩きつける技。相手を抱えた体勢のまま叩きつけるので、そのままフォールに持ち込める)という技で、中谷さんが勝利した。
 大技はやってはいけないと言っていた沙希さんではあるけど
「まあ、形としてそうなってしまったから仕方ないか。相手がダイビングボディアタック(コーナーポストからジャンプして、相手に自分の体ごと浴びせる技)してきたのを受け止めた、はいいけど、その勢いに押されてああいう形になったみたいだから」
 ということで、特例として許されたようである。確かにこの試合でのパワースラムは狙ったものではなく偶然の産物だったらしい。実際、技巧派の中谷さんに怪力系の技であるパワースラムはあまりにも不釣合いすぎる。
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