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16R 不慮の勝利

「ま、ここは私の控室なんだけどね。でも、愛ちゃんがいた部屋にも一応モニターはあったはずなんだけどね」
 確かにモニターはあった。でも、そのモニターは試合を見るためには使われていなかった。その理由、ある先輩が持ち込んだゲーム機が接続されていたため、なんて沙希さんには話さないほうがいいかな。私も緊張をほぐすためにちょっとゲームに参加したから同罪だし(もっとも、実際の試合を見れば解るように、全く緊張はほぐれてなかったけど)。

 モニターを見ると、石浦選手が攻めているシーンだった。PPVで生中継されているという事で、実況の音声付きだったけど、それによると、かなり長時間石浦選手が攻めているようだ。
 ただ、中谷さんの表情を見れば、まだまだ余裕があるのは明らかだった。
「凄いね〜、この石浦っての。ウチに欲しいわ」
 沙希さんの言葉に、私は思わず
「中谷さんが受けに回ってるから強く見えるだけじゃないんですか」
 と生意気なセリフを吐いてしまう。
「違うのよ、その事じゃないの。確かに中谷ちゃんが受けてあげてるんだけど、一つ一つの技が綺麗だって事を言ってるの。いくら相手が受ける体勢を取っていても、技が上手いかどうかは本人の技量だからね」
 と沙希さん。そうか、そういう見方もあるんだ。

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