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16R 不慮の勝利

「あ・あの、私、インタビュー……」
 思ったのと違う事を言うのが辛くて何度も逃げ出したいと思った事を言おうとした私だが、沙希さんは
「解ってる。愛ちゃんが何を言いたいのか解ってる。私だって愛ちゃんのように感じた事は何度だってあるから。でも、これがプロなんだよ。私から言えるのはただ一言。よく頑張ったよ、立派だったよ」
 と言ってくれた。本来なら試合に勝ったのだから、今日のインタビューで自分の言ったようなことも自信を持って堂々と言えただろう。だけど実際は、アクシデントがらみという部分で、石破選手に対して悪い事をしたという負い目もあって、どうしてもコメントするのに辛い部分があった。そのあたりの部分を沙希さんも解ってくれていた。私は深々と沙希さんに頭を下げた。

「さてと、中谷ちゃんはどうなってるかな」
 何気なく言った沙希さんの言葉に
「あ、そうだ、中谷さんの試合!」
 と私は思わず大声を上げて、ホール入り口に向かって走り出した。
「愛ちゃん! 試合見るならこっち!」
 沙希さんが慌てて私を呼び止める。
「あんなドアの隙間から見たって、ドアからリングまですごい離れてるじゃない。それならモニターで見た方がいいよ」
 沙希さんに連れられて着いた所は、モニターテレビが置かれた部屋だった。

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