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16R 不慮の勝利力強く言いながらも、私は早くこの場から逃げ出したかった。思ってることと全然違う事を口にする事がこんなに心苦しいと思った事はない。「ところで、今、中谷選手の試合が行われてますが」 「ああ、さっきチラッと見ましたけど。石浦選手? 中谷さんが最初から飛ばしたとしたら秒殺の対象ですよ。まあ中谷さんは受け身のスタイルだから、石浦選手にも攻めるチャンスを与えてるんでしょうけど。いずれにしても、中谷さんの勝利はまず間違いないです。たとえ中谷さんが石浦選手に対して油断したとしても、それすらも調度いいハンデになるんじゃないんですか」 このコメントに限っては思った事を素直に言った。もっとも、確信の言葉ではなく、あくまで希望の言葉ではあるけど。 「今日の対抗戦、初戦は山神選手が勝利という事で、まずNJWPに勝ち星一ですね」 「そういうわけになりますけど、まあ、今日はNJWPの全勝でしょう」 これも希望の言葉。 このくらい話をしたらもう充分だろう。このあたりで切り上げよう。 「じゃあ、そういう訳で、中谷さんの試合も気になりますから」 そういって立ち上がると、記者たちが口々に「ありがとうございます」とか「お疲れ様です」とか言ってきたので、インタビューの切り上げは無事成功。 インタビュースペースから出ると沙希さんはにっこりと笑って私に向かって大きく何度も頷いた。 「えらい、えらい。よく頑張ったね」 |
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