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16R 不慮の勝利

「あ、えっと……」
 一瞬口篭りかけた私だが、ここで沙希さんに耳打ちされた事を思い出す。
「……まあ、当然の結果です」
 私の返答に記者たちの中から「おお〜」と声が上がる。
「最後のキックですけど、必要以上に力が入ってませんでしたか? なんか、あそこまでやらなくてもいいように見えたんですが」
 胸を蹴るつもりで繰り出したキックなので、顎を蹴るには力が入りすぎていたのは確かだ。でも、私はあえてそうは答えなかった。
「私としてはいつもの調子で、普通に蹴ったつもりですよ。まあ、意識的には普通のつもりでも、無意識のうちに力が入ってたかも知れませんけど」
「無意識のうちに力が入ってたかも知れない、その理由は?」
「だって、途中で出したカカト落とし。あれ返されるなんて思ってませんでしたから。あれを返されてしまったんじゃあ、力も入るんじゃないでしょうか。カカト落としを返されてしまったら、生半可な攻撃では勝てないと無意識のうちに感じてた、かも知れません」
 実際は返させるつもりで力を押さえていたカカト落としだけど、それを返されるとは思ってなかったと嘘のコメントをしてしまった私。まあ、プロなんだから嘘も方便だろうけど。
「だから、カカト落としを返されてしまった事でちょっと試合の時間かかってしまったんですけど、終わってみたら当然の結果ってところです」

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