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16R 不慮の勝利

 沙希さんはスペースの入り口の所で私が来るのを待っていた。
「あ、沙希さん。えっと、今の私の試合……」
 私がここまで言って口篭ると
「愛ちゃんの試合が、どうしたの?」
 と沙希さん。
 これからインタビューに答えないといけないんだけど、試合が試合だっただけにどうコメントしていいのか私には解らない。
「えっと、インタビュー……」
 私が言いかけるのを沙希さんは遮った。
「愛ちゃんはプロなんだよ、プロフェッショナルなの。愛ちゃんの試合がアクシデントだったのは誰がどう見ても明らかなんだけど、これを逆に利用するくらいの図太い神経持った方がいいよ」
 沙希さんはそう言うと私の耳元に口を寄せ、そっと質問の答え方を耳打ちした。
「……こんな感じでいきなさい」
「わ・解りました……」
「じゃ、インタビュー、がんばって」
 沙希さんに促され、インタビュースペースの中に私は入った。

 私が椅子に座ると、すぐに質問が飛んでくる。
「まさに激勝という言葉が相応しいほどの試合でしたが」
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