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16R 不慮の勝利

 この試合は正式発表としては「14分42秒体固め」で私の勝ちだ。ただ問題は、この試合が“15分一本勝負”だったということ。もしかしたら私は「これはセメントでもなくシュートでもないよ、プロレスなんだよ」という自己満足のためだけに、時間ギリギリまで石破選手をいたぶっていたんだろうか。しかも最後にはアクシデントとはいえ、えげつない一発まで入れてしまった。
 確かにこれはセメントでもシュートでもない。でもプロレスでもなかった。相手との信頼関係皆無では言い訳の仕様が無い。
 私は「しょっぱい試合を見せて済みません」という意味を込めて、リングの上から四方に向かって深々と頭を下げた。そして逃げるようにリングを後にした。


 ホールの入り口のドアから廊下に出ると、次の試合に控えている中谷さんが
「やっちゃったね。最後のキック、見てて私も鳥肌が立っちゃったよ」
 と苦笑いしながら話し掛けてきた。
「やってはいけない事やってしまいました……。後で石破選手の様子を見てきます」
 私が言うと、中谷さんは小さく「ま、愛ちゃんの気持ちもわかるんだけどね」と呟くように言った。

 改めて中谷さんのいでたちを見ると、柔道着姿だった。いつもは前座の若手は、無地のワンピース水着で試合しているけど、多団体を見ると若手から結構派手なコスチュームで試合している。それに対抗する為に、私も中谷さんもこの試合限定でコスチュームを新調した。ちなみに私がこの試合の為に身に
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