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16R 不慮の勝利石破選手が自力で立ち上がるのを待ってもいいけど、なかなか立てなかったりしたらノックアウトで試合が終わってしまう。私は石破選手を無理矢理立たせた。そして、三たび、胸へのキックの体勢に入る。石破選手は両腕で胸をガードしようとした。しかし、私のキックの体勢はただのフェイント。両手を上げさせ、無防備になった下半身を狙って両足タックルだ。 長谷川さんとの試合では、助走付きのいわゆる『スピアータックル』をやったけど、その技はどちらかというと大技に入るので、ここでは普通のタックルにした。もっとも、私の体の“押し”と、相手の足を抱える私の手の“引き”にはいつも以上の力を込めた。石破選手は受け身を取る間も無いほどの勢いで倒れたので後頭部をまともにマットに打ち付ける。 ──あなたの出来損ないのバックドロップは頭部どころかどこにもダメージを与える事は出来ない。でも私はただのタックルで頭に強烈なダメージを与える事が出来るんだ── 私は倒れた石破選手の上の体勢を取ると、手といい足といい、とにかく思いつく限りのありとあらゆる関節技を掛けまくった。ロープに逃げようとしても、私の体重のかけ方が自分でも感心するほど完璧だったので、全く身動きできない。 この時も私の記憶は少しあやふやではあったけど、冷静な部分もあった。関節技をしながら「石破選手は意外と体が柔らかいな。たとえ本気の中谷さんの関節技でも耐え切るかも知れない」と考えていたからだ。 |
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