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16R 不慮の勝利

 晶ちゃんなどは
ビデオになるんだ〜。いいな〜。センパイ〜
 と言っていたけど、こればかりは当事者になってみないと解らないだろう。もっとも晶ちゃんに限っては、当事者になっても、まず確実に解らないだろうけど(断定)。そういう意味では、中谷さんも緊張というものからは程遠い人間だ。当の中谷さんは鏡とにらめっこしつつ
「カメラさん、私の顔をアップにするならこの角度でお願いしようかな」
 なんて言いながら嬉々としていた。以前沙希さんは「プレッシャーをプレッシャーと認識する能力が完璧に欠如している」と言っていたけど、私もその意見には力いっぱい賛成する。
 もっとも、この二人と普通の人を、同じものさしで見てはいけない。普通の人なら緊張する場面で緊張する事が出来ないのだから。その点、私は普通の人だから、緊張したくなくてもしてしまう。
 そう。私の緊張の度合いは半端ではなかったのだ。ここでも一つ狂っていた。

 また、この大会の一つ前のシリーズの開幕戦で晶ちゃんのデビュー戦があった。その相手は、前々から沙希さんが言っていたように私だった。
 デビュー戦というものは、NJWPでは基本的には“上手い先輩レスラー”が相手をするものと決まっていた。その一番の例は中谷さんのデビュー戦。なんと言ってもメインイベンターの沙希さんが相手をしたのだから最高の“上手い先輩”だ。過去には紺野さん対水野さんのデビュー同士の対戦というのもあるにはあったけど、この二人の場合はデビューの時点で既に“相手を光らせる”、“上手に技を受ける”ことが出来ていたので例外中の例外として組まれた試合だった。
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