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15R 対抗戦前夜

 次の日のスポーツ新聞は、対抗戦が決定した事を競って一面に大々的に報じていた。それを一方では冷ややかな目で眺めるNJWPの選手、一方では闘志を新たにするジャパンレディースの選手。この反応の違いも、結局はメジャーとインディーの差だろう。ジャパンレディース側としては、NJWPに対する恨みはもとより、自分を広く世間にアピールする絶好のチャンスをものにしたいという部分もあるが、NJWP側としては「なんで自分らがインディー相手に戦わないと……」と少なからず感じてたりするからだ。ウチの社長がジャパンレディースを「馬の骨」と言った真意は社長しか知らないが、選手の間では本気で「馬の骨」と思っている者もたくさんいるという事だ。そんな考えは凄く危険だ。昔の人も、奢る平家久しからずと言っている。
 私は内心「そんな事言ってたら負けてしまう」と思ったが、相手はベテランの大先輩なので口には出せない。ただただ、試合はきっちりとやって欲しいと願うだけだった。

 ちなみに、対抗戦の日時決定を社長は呆れ顔で承認したらしい。「沙希はもはやアングル作りは私を超えたな」とか呟いていたそうだ。プロレス用語でアングルというのは、カメラワークの事ではない。盛り上げたり売り出したりするために、因縁や経歴、ストーリーなどを“でっち上げる”事だ。他の団体では、こういうアングルで行くと打ち合わせた上で選手が“演技”したりする。また、海外の団体などは、プロの脚本家がアングルを書くこともある。プロレスは八百長だという意見が世間ではあるけど、確かに因縁抗争などには筋書きが決まっているのだから、それはそれで正論なのかも知れない。しかし、マイクアピールなどの「やってやる!」という台詞が筋書きだとしても、実際のリングでの試合までも八百長だと言われたらレスラーとしてはたまったもんじゃない。話が横道にそれたけど、アングルというものは事前
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