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15R 対抗戦前夜

 そう言うと、沙希さんは携帯を閉じて笑みを浮かべた。
「さぁて、明日は一世一代の名演技を見せてやろうか……」


 次の日、沙希さんは会場入りすると、すぐにジャパンレディースの長谷川さんに電話をかけた。まだこの会場にも、ジャパンレディースの会見場にも記者は来ていないことを確認すると、しばらくそのまま通話を続ける。
『あ、そろそろ記者が来るから会見場に出て来いと言われた』
「こっちも何人か来たみたいだよ」
『じゃあ、いくワケ?』
「うん」

「ふざけるんじゃないわよ! 美幸、あんたいいかげんにしないとただじゃ済まないよ!」
 いきなりの怒声に、集まり始めた記者も、そして私を含めたレスラーたちも、驚いて沙希さんを見た。

 同じ頃、長谷川さんも携帯相手に怒声を浴びせていた。長谷川さんの付き人がオロオロしながら
「あの、会見が始まりますけど……」
 と言うが、無視して携帯を通じて沙希さんと罵りあいを続ける。長谷川さんがいる部屋は、会見場と壁一枚で仕切られていたので、その怒声は会見場に集まった記者にも筒抜けになっていた。
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