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15R 対抗戦前夜

 言いながら私はあわてて写真の選手を指差した。
「全然小さいって当たり前じゃない。この娘、145センチだよ。ちっとも大型選手じゃないじゃない」
 え゛?
「あ、間違えました、こっちです」
 指差しなおす私。間違えて石浦選手のほうを差していたのだった。
「でも、こんな娘がいると嬉しくなるねぇ。私よりも小さいんだもんね。こんな娘と試合したいなぁ、自分より小さい人とプロレスした事一度も無いからさぁ。柔道ならあるんだけどねぇ」
 上手く誤魔化せたみたい。
「やっぱり、小さいってのはコンプレックスですか?」
「ん〜ん。私生活ならともかく、プロレスでは小さい事をハンデと思った事は一度も無いよ。柔道でも柔よく剛を制すって言うし、逆に長所だとも思うよ。でもこの娘、写真の表情を見る限り、そこまで開き直れてないみたいなんだよね。だから試合を通じて教えてあげたいなぁとも思うんだよね」
 確かに我がNJWPの社長は小さい体にありながら一時代を築いた日本女子プロレス界の伝説の一人(と言うと、私はまだ引退してないと言うんだろうけど)だし、中谷さんも完全に自分のポジションを確立している。
「なんか、大きい人には勝てないって思いながら試合してるみたいな表情なんだよね。勝敗を決めるのは体の大きさよりも、別のものがあるから。心・技・体って言うけど、この最後の体っていうのは大きさのことじゃなくって、修練によって鍛え抜かれた肉体の事だと思うんだ。一生懸命練習して体を鍛えて技も磨く。でも、一番大事なのは心だね。心で負けてたら赤ちゃんにだって勝てないよ」
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