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15R 対抗戦前夜

 改めて中谷さんに聞かれて、私は雑誌を取り出した。
「コンビニに無かったから、売ってある本屋さんを探すのにちょっと迷っちゃいました」
「へぇ〜、愛ちゃんがプロレス雑誌買うなんて珍しいね。何か気になる記事でもあったの?」
 中谷さんは、自分がまだ若手のうちからマスコミに踊らされるのはマズイという考えでプロレス雑誌は買わない人だけど、私は私で、自分の試合が精一杯で、他の人、もっと言えば他の団体の試合まで頭を回す余裕がないという理由でプロレス雑誌は買わない。たまに立ち読みで自分の試合をチェックするくらいだ。
「え……と、ここです」
 私は雑誌を開いて中谷さんに見せた。ジャパンレディースの試合の記事だ。「期待の若手二人」という見出しで石破選手と石浦選手の試合が掲載されている。そのページを開いた時、そばにいた沙希さんの目が大きく見開かれたのだけど、私も中谷さんも気付いてなかった。
「他の団体の同年代の選手にチェック入れるなんて、愛ちゃん研究熱心なんだね〜。あれ? ジャパンレディース……? もしかして愛ちゃん、対抗戦が実現すると思ってるんだ? そうしたら自分はこの人たちと戦いたいって、もう既に狙いを定めているの?」
 現在マスコミでは対抗戦をあおるかのような風潮だけど、私達選手の間では会社の方からもそのような事を何も言ってこないので、マスコミが勝手に騒いでるだけだと思われている。上層部だけのトップシークレットだから中谷さんも当然水面下の交渉が着々と進んでいる事なんて知らない。
「あ、タッちゃんが他の団体で大型の若手がいるって聞いたからどんなのかなって思って買ってみただけですよ。でも私より全然小さいですね、へぇ、これジャパンレディースなんだぁ、あはは」
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