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14R シュートとセメント

「火を通しすぎると固くなるでしょ、せめてミディアム程度にしておきなさいよ」
「ミディアムにしようとしてる肉を、まだレアの状態で横取りしないで下さいよ」
 などと言い合いしている横で、中山先輩は我関せずと、石焼ビビンバを食べていた。

 食事が一段落したところで、沙希さんはソフトドリンクを三つ注文した。
「私たちはジュースでいいですけど、沙希さん、お酒じゃなくていいんですか?」
「三禁のあるあなた達の前で美味しそうにビール飲むわけにはいかないでしょ。これでも気を使ってるんだから。だいたい、ビール飲むつもりなら、最初から頼んでるよ。今からじゃ遅いでしょ」
 などと言ってる内に、私たちの前にドリンクが置かれた。
「さてと、実は、今日は二人の意識調査をしたいんだ」
 ドリンクを一口飲むと、沙希さんはこう切り出した。
「意識調査?」
「ジャパンレディースとの対抗戦があるかもしれないという噂は知ってるよね?」
 私と中山先輩は頷く。上のほうでどこまで話が進んでるかなんて、前座の若手には解るはずも無い。だから現時点で私が知ってる事は、新聞・雑誌などで報道されてる噂の段階でしかない。当事者でありながら、マスコミ報道しか知る術が無い、下っ端というのはどの世界でもこんなものなのだ。
「もしも、だよ。二人が対抗戦に出たらどうする? もちろん二人の実力・キャリア的に見合う相手がジャパンレディースにいれば、の話だけど」
 沙希さんのこの問いに、中山先輩は即答した。
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