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14R シュートとセメント

 さっきまで黙っていた中山先輩が口を開いた。
「覚えてないのよ……」
 中山先輩は苦笑しながら
「埒があかないや。じゃあ、肉食いましょ、肉」
 と、すぐ側にある焼肉屋の看板を指差した。
「今日の私はパスタの口なのよ〜」
「解らないんだから仕方ないでしょうが。行きますよ」

「あ! 沙希さん、そのカルビ、まだ生焼けですよ!?」
「いいの、私はレアが好きなんだから」
「沙希さん、そのタン塩、片面しか焼いてない……」
「裏返したら、表面に浮かんだ肉汁がアミの下に落ちてしまうじゃない。これがタンの一番美味しい食べ方なのよ」
 さっきまで、イタリアンだ、パスタだと言っていたのはどこの誰だろう。一応レスラーだという事で五人前注文したんだけど、そのうち三人前以上は沙希さんの胃に入っていった。ちなみに、カルビとタン塩あわせて五人前ではない、それぞれで五人前、合計十人前だ。つまり沙希さんは単純に六人分以上は食べている。だいたい、私がもう少しじっくり火を通そうと思ってる肉を横からヒョイパクヒョイパクしてしまうんだから、食べたくても食べれない。かといって、沙希さんと同じ程度の火の通り具合では気持ち悪くて、やっぱり食べれない。
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