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14R シュートとセメント

 その日の夜、私と中山先輩は沙希さんに呼ばれた。沙希さんは例の私と中山先輩のシュートマッチの件には一言も触れず、「食事でもしよう」と、私たち二人を連れて宿舎のホテルを出た。
「あ〜、私も付き人なんだからお供しますよ〜」
 と中谷さんが背後から言っていたが、沙希さんは聞こえてないのかそのまま振り向かずに歩き続ける。
 先日、中谷さんは中山先輩の私に対する仕打ちに凄い剣幕で怒っていたはずなのに、今日は普通に中山先輩とも話している。

「あの場でガーッと言うのをお客さんは期待してるだろうと思ってね。中山さんが何であんな事をしたかは私も理解してるつもりだから、一種の演技よ、演技」
 とかなんとか中谷さんは言っていた。何でもタオルを投げたのは私の予想通り中谷さんだったけど、その直前、中山先輩がお客さんには解らないように、中谷さんにタオルを投げるように目で合図していたというのだ。
「ただね、あの場で私が怒るのは本当はだめなんだよ。愛ちゃんが怒らなきゃ。愛ちゃんと中山さんの問題を第三者の私があれこれ言うのはお門違いなんだからね。お客さんだって、中山先輩に抗議するのは愛ちゃんって期待してたと思うんだ。でも愛ちゃんは呆然としてるし、このままではお客さんは肩透かし食らってしまう。だから代わりに私が抗議したんだけど、これで愛ちゃんと中山先輩の因縁が少しぼやけてしまったね。二人の問題のはずが私が目立って終わりって感じでお客さんの印象に残っただろうから」
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