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14R シュートとセメント

けど、私に「ナイス」と言ってきた人も実際いるからね」
 中山先輩の言葉に、頭を強く叩かれたような衝撃を感じた。前座の若手同士、みんな仲良くしているつもりだったのに、私に嫉妬してる先輩も何人かいるんだ。
「そういう訳で、昨日の試合の真意は、プロとしてコンディションを整えれなかった山神に対する制裁だというのが一つ、もう一つは山神に対して「いい気になるな」と思ってる選手達の思いを代弁したというのがもう一つだね。あ、でも私は山神に対して変な感情は持ってないから安心しな。少なくとも私には、セメントで勝てるくらいの力をつけないと、プロレスでだって勝てないから。それだけの自信あるからね」
 私は俯いたまま何も言えずにいた。
「ただな、私は結果的にあんたを助けた事になるかもしれないぞ。幸い昨日までの山神の試合相手は、あんたに反感持ってる選手はいなかったけど、このまま試合に出場していたら、つなぎ技のフリしてわざと思い切り力を入れたりして、ギヴアップしようとする前に技を外す、以後繰り返しってのをやられる恐れもあった。私があんたを欠場に追い込んだお陰で、そういうねちっこい嫌がらせをされる事は無くなった訳だからね」
 中山先輩はそう言うと「って、勝手な言い分かもしれないけどな」と笑った。
「あともう一つ。徹底的に肩を破壊した事で、あんたに反感持ってる選手の溜飲も下がり、中山があそこまでやったんだから勘弁してやるかって感じで、復帰したあとの嫌がらせも無くなるだろうね」



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