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14R シュートとセメント「あの、昨日の試合なんですけど……」「あ〜、私は間違った事はしてないつもりだよ。昨日も言ったとおり、リングに上がる以上、相手からは万全のコンディションと思われても仕方がない。山神だって試合に出た以上、ケガを負けの言い訳にしてはいけない。解るよな?」 「は・はい」 「昨日までの試合を見ると、あんたは確かに口では言い訳はしてないけど、試合の態度で、体で言い訳してた。これについて反論あったらどうぞ」 確かに、痛みで試合に集中できなかったとはいえ、かなり消極的な試合になっていたような気がする。 「他の格闘技はとにかく勝てばいいんだけど、プロレスでは客を満足させるという大前提があるのは知ってるよな。だから、いくらあんたが花形レスラーとはいえ、それは“プロレス”という枠の中での出来事だ。ウチの選手の中で、セメントで勝てる自信のある選手、山神はいるか?」 「あ、えーと、晶ちゃん……」 中山先輩は苦笑した。 「如月はまだデビューしてないから、本当の意味での選手じゃないだろ。それ以外で」 「……もしセメントしたら、今の私では百回やっても誰にも一回も勝てないと思います……」 「なるほど、頭では解ってるんだな。でも、最近のお前の態度を見ると、プロレスで勝ったのに地力で勝ったと錯覚してるように見えてね。セメントなら負けないのにあいついい気になりやがって、と思ってる“あんたに負けた”先輩レスラーも名前は出せないけど何人かいる。昨日の私の試合を見て、口では「プロレス道にもとる行為」だとか言いながら、内心拍手してた選手もいるんだ。これも名前は言えない |
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