もどる

14R シュートとセメント

 診断の結果は左肩脱臼。幸い骨には異常は無かったものの、大事をとる意味で、今回のシリーズの明日以降の日程についてはドクターストップがかけられた。レスラー人生初めての欠場だ。


 次の日の会場で、当日の試合カードを見ると、私だけでなく中山先輩の名前も書かれてなかった。

 勉強のために、試合には出なくても、観戦はするようにと沙希さんに言われて、会場の隅っこに椅子を置いて座っていると、中山先輩も私の隣に椅子を持ってきて座った。
「まいったね〜。やっぱり処分受けちゃったよ……」
 処分? いったい何の?
「山神ってさ、自分では気付いてないだろうけど、前座の中では中谷に続く花形レスラーなんだよ。あんたを見たくて会場に来るファンだってたくさんいるんだ。でも、理由はどうあれ、私はあんたをアクシデントではなく故意に欠場に追い込んでしまった。興行に穴をあけた罪は重いよね。そのペナルティとして、このシリーズ、残り日程に出場停止処分が下されちゃったってわけ。もちろんそのぶんのギャラは無し。山神の場合は、サラリーマンでいうところの有給休暇みたいな感じで、休んでるぶんもギャラは保証されてるんだけどね」
「す・すみません……」
「なんで謝るんだよ。悪いのはこっちだからさ。ま、私は謝るつもりはないけど」
 せっかくの機会だ。昨日の試合の真意を聞いてみよう。
前ページ
次ページ