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14R シュートとセメント

「愛ちゃん、ケガしてるんですよ! それをわざと何度も何度も──!」
「私が狙ったのは“ケガ”ではなく、あくまで“左肩”よ。その場所をケガしていたかどうかなんて関係ない。山神のコンディションに関わらず、今日は左肩を攻める作戦だったから」
「でも、ケガしてるんだから作戦変更してもいいじゃないですか!」
 中谷さんの言葉に、中山先輩の目が一瞬冷たい光を放っているように感じた。
「プロとして、お金を貰ってお客さんに見てもらう以上、勝つことよりも、いい試合する事よりも、万全のコンディションを整えてリングに上がることが一番大切なことのはずよ。誰が安くもない入場料払って、ケガ人見たいと思う? 山神がケガしてる事は知っていた。でもリングに上がったという事は、コンディションには影響ない程度の軽い症状だと思ってもいいんじゃない?」

 今日も無理してリングに上がったので、コンディションには影響ありまくりだった。

「リングに上がれるコンディションなら、万全の体調といってもいい。だから、私は、“正々堂々と”左肩を狙った。それだけよ」

 控室に戻ると沙希さんが
「あとで中山からは事情を聞くから。愛ちゃんはすぐに病院に行きなさい」
 と言って、中谷さんには、私に付き添うように言った。

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