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14R シュートとセメント

上がれない。顎に衝撃を受けた事で軽い脳震盪を起こして、それが足に来ていたようだ。中山先輩が私に覆い被さろうとする。こんな状態ではカウントを跳ね返す事なんて出来ない。ピンフォール負け確実だ。今日も勝てなかったか、と思った次の瞬間、左肩に激痛が走った。
「!!」
 中山先輩は、フォールに来たのではなかった。馬乗りの状態で、私の左肩を力任せに殴りつけてきたのだ。
 さらに中山先輩は、私を強引に起こすと、左腕を取ってアームブリーカー。その衝撃が左肩に伝わり、私は声にならない悲鳴を上げた。
 そして、今度は顎ではなく、左肩を狙ったドロップキック。
「い・痛い! 痛い痛い!」
 私は叫びながら、マットの上をのた打ち回った。
 中山先輩が故意に私のテーピングしている箇所を狙ってる事に気付いたのか、客席からブーイングが起こった。しかし、中山先輩の冷酷な攻めは止まらない。倒れている私の左肩目掛けて足を振り下ろし、ストンピング(踏みつけ)攻撃を繰り出したのだ。
「あ──ッ!!」
 私の顔は、額から滲み出た脂汗と涙まみれになっていた。あまりの痛さに涙がこぼれてしまったのであって、決して泣いているわけではない。でも傍目から見たら、明らかに私は“泣いていた”。


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