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12R バトル・ロイヤル

 回転のダメージから回復した私と中谷さんはリング中央でがっちりと組み合った。さっきまでは私と中谷さん以外全員失格という事実に戸惑いがあったけど、今は完全に吹っ切れていた。優勝とかそういうのは関係ない、今まで一度も勝てなかった中谷さんと戦える今年最後のチャンス、絶対にものにしたいという思いが私を突き動かしていた。
 中谷さんが一本背負いの体勢に入った。しかし、私はもうそのパターンは知り尽くしている。ましてや、いきなりあからさまにそれを食らうほど私はペーペーの新人ではない。重心を落として投げに対してディフェンスを取る。が、そこから中谷さんは体勢を入れ替えた。
「え……!?」
 気付いたときには私は変形のバックドロップのような技で投げられていた。後で知った事だけど、ロシアのサンボという格闘技の裏投げという技らしい。柔道にも同じ名前の技があるけど形が違う。柔道出身でありながらあえてサンボの技を使うあたりに、中谷さんなりの自己主張が感じられる。
 即座にカバーに入る中谷さんだが、私はなんとかカウントツーで肩を跳ね上げた。いつもの前座の戦いのつもりで行ってはいけない。大技が許されているんだ。気持ち的には大技がありだろうと無しだろうと変わりは無いけど、戦術的な部分では切り替えが必要だ。しかし──。
 中谷さんはいろんな引き出しを持っている。バックグラウンドの柔道をベースにした技もたくさんあるし、今の裏投げのように他の格闘技の技まで知っている。前座で使う技しか知らない私の取れる戦術は、それをいかに防ぐかという消極的なものしかない。大技解禁といっても、大技を知っている中谷さんと大技を持ち合わせていない私とではハンディキャップマッチみたいなものだ……。

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