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11R 大技

 この体勢からあの技をやれば勝てる自信はある。でも、それは余りにも危険な技なので実際の試合でも使った事が無い技だ。
「愛ちゃんがあれを使わないといけないほど追い詰められてるの……?」
「プロレスのルールで許されている技で、打撃技でなかったら何やってもいいよ!」
 躊躇している沙希さんに代わって社長が答えた。私自身、少し戸惑いもあったけど、社長の許可を貰ったらやるしかない。私は晶ちゃんの足を締め上げている腕の角度を変えて、別の方向から技を掛け直した。ヒールホールドだ。アキレス腱固めはじわじわとダメージを与えていくけど、ヒールホールドは力加減によっては即座に靭帯が切れてしまう。しかも痛みは直接的だ。ギヴアップしようとする前に靭帯が切れてしまうくらい危険のため、競技・団体によっては禁止技に指定されている程の技だ。
い……痛い痛い!
 晶ちゃんはそう叫ぶと私の足をポンポンと叩いた。良かった、ギヴアップの仕方は知ってたんだ。私自身スパーリングとはいえ初めて使う技だったから、どのくらいの力までなら大丈夫なのかは把握し切れてない。
「ゴメン、痛かった? ちゃんと立てる?」
 こう言いながらも私は晶ちゃんに対して末恐ろしい娘だと感じた。たった数時間でここまでやれるなんて、普通じゃ考えられない。こうなったら晶ちゃんにはすぐにでもデビューさせて、プロのリングの厳しさを叩き込んで自信喪失させるしかないかな、と一瞬思ったくらいだ。実際、このまま社長のトレーニングを受け続けたらデビューする頃には誰も手がつけられなくなってしまう。
「沙希さん、晶ちゃん、ここまでやれるなんて、今すぐデビューさせてもいいんじゃないですか?」
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