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11R 大技

 と言い返した。確かに相手に合わせて動く事は隙が生じる切っ掛けにもなる。私は防御の構えを崩さない事に細心の注意を払うよう自分に言い聞かせた。
 しかし、次の瞬間、私はマットに倒されてしまう。顔と胸、つまり上半身へのディフェンスにばかり気を取られて、下半身が完全にノーガードになっていたのだ。そこに晶ちゃんが両足タックル。慌ててタックルを切ろうとしたが遅かった。
「打撃をすると言っておきながらタックルなんて卑怯ですよ!?」
 沙希さんが言うが
「あら、私はなんでもありと言ったよ。組技をしないとは一言も言ってないじゃない」
 と社長は平然と答えた。確かにこれは私の完全な油断だ。だけど先輩としての面目、そしてプロとまだデビューしていない人間の差を見せ付けるためにも負けるわけにはいかない。
 晶ちゃんは倒れた私に馬乗りになろうとしたが、私は自分の両足を晶ちゃんの胴に回す事でそれを阻止した。格闘技用語で言うならマウントポジションを狙う晶ちゃんに対して私がガードポジジョンを取ったという事になる。もし馬乗りになれたら、打撃を許されている晶ちゃんは容赦なく私の顔面を狙うだろう。仮に打撃無しだとしても、馬乗りのポジションはあらゆる技に移行できる、戦いに置いて有利なポジションだ。しかし、晶ちゃんは私の足で胴を固定されている。この状態だと私が逆に晶ちゃんをコントロールできる体勢だ。見た目にはマットを背にした私は、上にいる晶ちゃんに比べると印象的に悪い。確かに上にいる方が戦いでは有利だ。いくら下から私が晶ちゃんをコントロールしても、私が有利なわけではなく、不利とは言えないという状況になっただけだ。ガードポジションはあくまでガードするためのポジションであって攻撃するためのポジションではないのだから。
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