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11R 大技沙希さんは社長の言葉に、私の顔を見た。確かに同じくらいの実力同士ならこのルールでは攻撃が制限されているぶん私が不利になる。でも、相手が晶ちゃんなら、と軽い気持ちで沙希さんに頷き返した。思えばこれが間違いだったのかもしれない。私は更衣室に置いてあった自分のジャージ(あとで洗濯に出すつもりだったので、汗臭かったけど)に手早く着替えると、リングに上がった。 「じゃ、時間は無制限よ、始めて」 社長の言葉を合図に、私はリング中央まで出る。晶ちゃんは打撃もしてくるかもしれない事を想定して、打撃に対しての構えを取った。顔を張られないように片手でカバー、そして、橋田先輩を失神させた鳩尾への攻撃を一応警戒しておくために、胸にももう片手で防御の姿勢をとる。晶ちゃんは私の周りを反時計回りに動きながら隙をうかがっていた。私は常に正面に向き合うように、晶ちゃんの動きにあわせてその場で回る。 「この仕草だけでも愛ちゃんのほうが実力が断然上と言うのがわかりますね。リング中央にどっしり構えて、どこから攻めていいのか解らない如月がその周りをうかがってるから」 沙希さんが社長に話しているのが聞こえた。しかし社長は不敵な笑みを浮かべると(晶ちゃんの動きにあわせていた時に、たまたま向き的に社長と沙希さんが視界に入ったので見えた) 「私の戦い方は、リング中央で動かないのではなく、常に動くスタイルだよ。止まってるもの同士なら隙を見つけるのは難しくても、動けば突破口が開けることもあるからね。如月が動くと山神もそれに対してその場で回る。その山神が回るという事が隙を作る事にもなるんだよ」 |
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