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11R 大技

「マスターさせる必要は無いの」
「……はい?」
「実際にやって見せる必要も無い。口で説明するだけでいいから。それなら今夜合宿所の部屋でも一時間もあればいいでしょ?」
 私の場合、口頭での説明で相手の体をコントロールする理論を教わって、次に実際それを受けてみて痛みという部分で体で覚え、それから自分でもやってみる。そしてそれを覚えたら次のステップ、というふうに順を追ってやってきた。しかし、沙希さんは私に、晶ちゃんに対して実践する部分を完全に端折って説明だけで基本部分を全部教えろ、と言っている。一体どういうことなんだろう。

 その日の夜、夕食が終ったところで私は晶ちゃんを部屋に呼んだ。
なんですかぁ?
 いつものように間延びした声で晶ちゃんが私に聞く。
「私もよくは解んないんだけど、沙希さんにいろいろ教えるように言われてね」
合宿所の規律や道場のマナーですかぁ? そんなのとっくに覚えてますよぉ
 ……頭で覚えてても実践してなければ意味が無いんだけど……(晶ちゃんは合同練習の遅刻常習犯だったりする)。
「そういった決まりごとじゃなくって、タックルとか基本的な技を、だって」

 晶ちゃんはキョトンとしたが、私は構わず話を続けた。
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