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11R 大技

 中谷さんの説明はまだ続く。
「水野さんの強みは、打撃勝負でも組み技勝負でも何でも出来るという事なんだ。でも、何でも出来るという事は逆に言うと個性が無いとも取れるからね。プロレスというルールの上ではほとんど互角なのに、マスコミとか会社の上層部の人間は紺野さんを格上、水野さんを格下という風に見ていたのは、強烈な個性が無いからという一言に尽きると思うんだ。その証拠に、水野さんが勝った試合の決まり手を見ると、打撃に弱い相手には打撃、打たれ強い相手には関節とかの組み技、それでも決まらなかったら私が水野さんにやられたように一瞬の隙を突いて丸め込んでスリーカウントを“かすめ取る”ような技、という風に、水野さんを象徴するような必殺技が無いじゃない。どんな技でも勝つことが出来るのは素晴らしい事だけど、それだけに見る側としては「あれ? 今日の試合水野が勝ったのは覚えてるけどなんて技で勝ったっけ?」というふうに印象に残らなくなってしまうんだ。そこいくと、森山さんも器用でどんな技でも勝利できる上手さがあるけど、それに加えて必殺技ドラゴン・スープレックスを持ってるからね。その技を出したらお客さんの印象に残るってのは言うまでも無いけど、それ以外の技で勝ったときも「今日の森山はドラゴンじゃなくてこれこれこういう技で勝ったぞ」と印象に残るものなのよね」
 つまり、グラップラーとかストライカーのように系統がはっきりしている、つまり個性のある選手はトータルファイターよりも印象に残りやすいため、トータルファイターを目指すとしたら“これ”という必殺技を持った方がいい、というわけ、なのかな? 私は中谷さん(柔道)や松田さんたち(アマレス)からいろいろ教わってきたので、どちらかというとグラップラーのはずなんだけど、それで勝負しようとしたら中谷さんにはとてもかないっこない。だから組み技ではなく打撃技に活路を見出してストライカーに転向した、ということになる。
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