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10R プロ

 その時、会場の片隅から思い出したかのようにパラパラと小さな拍手が聞こえた。と思ったら、それを合図に会場全体が揺れるかのように拍手と歓声で埋め尽くされた。
「この拍手、私に対して……?」
「決まってるでしょ! ほら、何ボーっとしてるの? ガッツポーズでもしてお客さんに答えなさいよ!」
 私は恐る恐る腕を上げた。それに呼応するかのように歓声も大きくなる。
 私のポーズにお客さんが反応してる……。

 この前まで悩みで眠れなかった私だったけど、その日は興奮でやはり眠れなかった。

 次の日の試合は、私は最初からカカト落としを狙ってみた。結果、二日連続の勝利となった。
 三日目ともなると相手の先輩も警戒していたのでカカト落としを狙えるチャンスはなかなか来なかった。が、フィニッシュホールドがあるという安心感が精神的にも良かったのだろう。先輩の動きがなんとなくだけど読めるようになっていた。
「ここだ!」
 中谷さん直伝の柔道式腕がらみ、チキンウィングアームロックを私はがっちりと極めた。先輩は声にならない悲鳴を上げると私の体をパンパンと叩いてギヴアップの意思表示。
『5分39秒、羽根折腕固め、山神愛選手の勝ちです!』
 三日連続の勝利、そして初めてのギヴアップ勝ち。勝つことがこんなに気持ちいいなんて、以前の私には全く想像できない事だった。こんな気持ちいいことはずっと続けていたい、もう負けたくない!

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