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10R プロ

の言葉をフと思い出した私は、どうせ負けるんだから試しにやってみようか、と、テレビのK1で見たカカト落としを見よう見まねでやってみた。

「……え……?」

 私は自分の足を見て、呆然とした。さっきまで、いつ私を仕留めようかと余裕の表情だった先輩が完全ノックダウン状態になっていたからだ。
「愛ちゃん、カバー、カバー!」
 セコンドの中谷さんの声に、私は慌てて先輩の体に覆い被さった。先輩はピクリとも動かないまま、レフェリーの手があっけなく三回マットを叩く。
『6分13秒、カカト落としからの体固め、山神愛選手の勝ちです!』
 アナウンスが流れ、私の手がレフェリーによって上げられても、私は呆然としたままだった。
 もしかして、勝っちゃった……の……?
 リングに飛び込んだ中谷さんが私に抱きついてきた。
「愛ちゃん、初勝利、おめでとう!」
「え? あ、はい……」
 私はしどろもどろに答えながら、会場を見渡した。さっきまでそれなりに歓声が上がっていたのに、今は完全に静まり返っている。
「お客さんが黙ってる……。私、変な事しちゃったのかな……?」
「逆だよ逆! 愛ちゃんの技が凄くて、声も出ない状態なんだよ!」
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