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10R プロ第四試合といえば、興行の前半と後半を挟む休憩前の試合、前座のメインイベントだ。私は慌てて後ろにいた沙希さんを見た。沙希さんは私の視線に気付くと頷く。一体どういうことなんだろう。今まで無様な試合しか出来ていない私がいきなり第四試合に抜擢なんて……。 「愛ちゃん、デビュー戦以来だね、頑張ろうね!」 「え? あ、はい……」 選手としては一番下っ端の私と、その次にキャリアの少ない中谷さんはいつも青コーナー側の控室だったけど、その日はその二人の試合と言う事で、中谷さんは 「じゃ、後でね〜」 と私に手を振って、赤コーナー側の控室に移動した。 「沙希さん、今日の試合は……?」 私は沙希さんを捕まえて聞いた。沙希さんはチャンピオンだから控室は赤コーナーなのだけど、試合がメインイベントなので、それまではいつも私と同じ青コーナーにいるのだ。 「別に深い意味は無いんだけどね」 沙希さんはそれだけ言うとあとは何を聞いても押し黙ったままだった。 そして試合が始まった。最初のうちは初めての休憩前の試合ということで緊張していたけど、中谷さんが受身に回ってくれていたので、気付いたときには夢中で試合していた。いつも一緒なので気心が知れていたから、というのも試合がスイングした理由だと思う。 |
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