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9R デビュー戦

 そしてついに中谷さんの十八番、一本背負いを私は生まれて初めて受けてしまった。マットに背中が叩きつけられて一瞬息が止まる。でも私はパニックになっている一方で、中谷さんが一本背負いを出したら次は腕ひしぎだというパターンが頭に閃いた。
 次の瞬間、観客席が一気に沸きかえった。中谷さんの必勝パターン、背負いから腕ひしぎの連携技を新人の私が破ったからだ。両手をがっちりと組んで、腕を伸ばされるのを阻止していたことに私は気付いた。考えてやった事ではない、体が勝手に動いたのだ。中谷さんの顔をチラと見ると、さっきまで余裕があったのに、今は驚きの表情になっていた。そろそろ試合を決めようとしていたところで、それを阻止された事による焦りが浮かんでいた。
 が、それは一瞬だった。すぐに冷静さを取り戻した中谷さんは、クルリと体勢を入れ替えたのだ。
「え!?」
 気付いたときには中谷さんのチキンウィングアームロックががっちりと極まっていた。自分の体勢を把握して、初めて腕の激しい痛みに気付いた。
 私は慌ててあいた手と足をばたつかせたが、片手と両足のどれもロープに引っかかる事は無かった。リング中央、まさにど真ん中だったのだ。中谷さんの技にかける力がさらに強まってくる。中谷さんは私を怪我させるつもりなんて無かったのだけど、受けている私にはそんな事は解るはずも無い。
「折れる……!」
 恐怖を感じてそう思った瞬間、私のあいた片手は覆い被さる状態になっている中谷さんの背中を叩いていた。

 終った……。
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