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9R デビュー戦

「あ、今のは私の独り言だから、聞かなかったことにしててね。私も中谷ちゃんに口止めされてたから」
 苦笑交じりの沙希さんに私は頷いた。
「あと、この前も話したけど、ピンフォールだけは取られないでね」
「はい!」
 わたしは心のモヤモヤが吹っ切れて力強く返事をした。

『青コーナーより、山神愛選手の入場です!』
 リングアナウンサーのコールの後に私のテーマミュージック、バナナラマのビーナスがホール内に響いた。
「あとで私もリングサイドでセコンドするから。行ってらっしゃい!」
 私は力いっぱい「行ってきます!」と叫ぶと、ホール入り口のドアを勢いよく開け放って、リングに向かって全力疾走した。そしてロープ上段と中段の間からリングイン(女子は普通は中段と下段の間から入る選手が多い。私は体の大きさをアピールするために一段上からリングインした方がいいと、かつて中谷さんに言われていた)。観客席からどよめき混じりに「でっけぇ〜」という声が聞こえるので少し恥ずかしさがぶり返したけど、それ以上に気持ちよさが出てきた(緊張の方は相変わらずだけど)。赤コーナーから中谷さんも入場してきたけど、さすがに客の目にも慣れている。
『ただいまより、第一試合、10分一本勝負を行います。青コーナー、178センチ67キロ……』
 ここでさらに観客のどよめきが大きくなった。現時点で、他団体も含めた日本の全女子プロレスラーの中で一番背が高いからだ。そして、私の名前がコールされる。私はペコリとお辞儀をした。続いて中谷さんの名前がコールされた。中谷さんは小さな体を少しでも大きく見せるためか、両手を高く突き上
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